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ソナーズのリリースによせて、感想のこと

ぶっちぎりで感想がもらえる小説サイトことソナーズ、どういう仕組みなのかと思ったら読んだ作品の感想を書かないと次の作品を読めない仕組みらしくてスパルタって感じだ
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概要

ぶっちぎりで感想がもらえる小説投稿サイトこと ソナーズ は、主に 文単位の「いいね」感想を強制するシステム によって作者にポジティブなフィードバックを届けることをねらっており、他の小説投稿サービスと異なる目的を持っています。

本記事では、ソナーズが目指しているであろう感想ネットワークについて触れながら、いわゆる 感想の三要素 との関連や、目指すべき感想指向型サービスについて考察します。

ソナーズについて

概要

ぶっちぎりで感想がもらえる小説投稿サイトことソナーズ昨年2021年12月にリリースされました。このサービスの構想自体は2020年1月頃からあったようで、少しずつ開発を進めつつ、現在は三本柱のうち二本しか実装されてないベータ版を提供している状態です。

ソナーズは匿名質問サービスのマシュマロと同じ組織によって運営されており、マシュマロ派生のサービスであると明言されています。もともと、マシュマロの運営組織ではマシュマロ式小説書き方講座というナレッジを公開しており、最終的にはこれらの知見とマシュマロで得られた(AIのための)データ群を組み合わせて展開していく予定なのかもしれません。

このサービスは今のところ、「文単位の『いいね』機能」と「感想強制機能」の二本柱によって特徴付けることができます。以下は、2022年1月時点で確認した動作をもとにした記載です。

文単位の「いいね」機能

文単位の「いいね」機能では、読んでいる文章の部分をタップして文ごとに :heart: を付けることができます。

文単位の「いいね」機能で、文末にハートマークと個数が表示されている様子

:heart: の数は押すたびに増え、1回のいいねごとに作者に通知されます。

「いいね」が押されたことの通知

これにより、読者はいいと思った箇所をタップするという直感的な操作で、効率的にポジティブな感情を示すことができます。また、「いいね」の数は積算されるので、言葉にならない強い思いを連打で示すという使い方もできるでしょう。

今のところ、画面を間違ってタップして増えた「いいね」を取り消すことはできません。また、いいねできる文の単位はシステムが自動的に分割したもので、約物を駆使した複雑な文章では適切な粒度で「いいね」できない場合があります。

以下は、閉じカッコで文が分断されている例です。

文中の閉じカッコの前で文が分割されている様子

長い文章を読んで作者が喜ぶような適切な感想を組み立てるのは、非常に高度で負担のかかる営みです。一方、Twitterなどで人気を集める短いテキストやキャッチーなイラストは、一瞬で全貌を把握して「いいね」をつけることができる 消化しやすい 表現です。そのため、文章を文単位の細かいチャンクに切り出して「いいね」しやすくすることは、これらの インスタントな 手法と同じ土俵に立ち、ポジティブなフィードバックを得るには必要な機能といえます。

しかし、細かいチャンクに対して「いいね」を送ることは、必ずしも文章全体の評価を表しているとは限りません。特に、小説のように全体的なストーリーの面白さと局所的な表現技法の巧拙の組み合わせで成り立つ作品では、ストーリーの評価は構造上明らかに無視されてしまいます。

このような エモい 文のチャンクのみが重視されれば、作者は最終的に小説という体裁を守る必要すらなくなり、より短いテキストを用いた表現に回収されていくでしょう。

当然、ただ短いテキストを箇条書きで羅列する作品ばかりになってしまっては、Twitterのモーメントとほぼ変わらない体験しか与えられなくなり、ソナーズの優位性が失われてしまいます。そのような事態を防ぐため、細切れの「いいね」では考慮できないストーリーの評価を保証するために用意されたのが、感想を強制する機能です。

感想強制機能

ソナーズでは、作者が感想を受け付けるよう設定した作品に対して、読後に匿名で感想を送ることができます。一方で、感想を受け付けないよう設定した作品には、感想を送ることはできません。さらに、感想を 送らなければならない 場合が存在し、この状態を本記事では感想強制機能と呼びます。

「感想求む!」と「感想不要」を選択できる感想受け付けオプション

感想が送信されると、作者の通知欄にその内容が表示されます。今のところ、送った/受け取った感想を一覧で表示する機能はなく、通知は古いものから順に消えてしまうので、感想を保管したり読み返したい層からは不満の声が上がっているようです。

感想が送信されたことの通知(「えびせんパーティー」という作品に送られた「この前中華えびせんを食べましたよ!」という感想)

感想を送らなければならないのは、特定の条件を満たした状態で新しい作品を読もうとしたタイミングだけです。具体的には、新たに感想受付中の作品を読みたい場合のみ、過去に読んだ同じ作者の感想受付中の作品全てに対して、(タップによる「いいね」ではなく)文字で感想を送らなければなりません。

前に読んだ作品の感想を送るまで次の作品を読めない旨を示すダイアログ(「この作品を読む前に、以前読んだ『三体のオートファクト』の感想をお願いします!ソナーズは「感想を書く読者」と「作品を書く作者」が一緒になって創作の好循環をぐるぐる回すサイトです」というメッセージと「感想を書きにいく」という青いボタン)

この機能は、作者が感想を求めやすく読者が感想を送りやすいシステムを実現し、ソナーズ上での感想に基づく作者-読者の関係( 感想ネットワーク )の強化を目的としていると考えられます。

なお、ほとんどのシチュエーションでは、読者が感想を書かない自由と、作者が感想を書かせない自由がそのまま残されていることに注意すべきです。本記事では便宜的に感想強制機能と呼んでいますが、サイト全体で横断的に無条件で作品に感想を書くよう強いたり、読んだ作品の感想を書くまで全くサイトを使用できなくなるというものではありません。

つまり、読者は今後同じ作者の作品を読むつもりがなければ感想を書かずに放置することができますし、作者は自分の作品を感想受付不可とマークすることで感想強制機能の対象から外すことができます。

ここで、他の小説投稿サービスを利用したことがある人は、感想を全く受け付けないか、感想強制機能を有効にするかの二択しかないことに違和感を覚えるかもしれません。たいていのサービスでは、感想ネットワークに参加せず任意に感想を受け付ける選択肢が用意されているからです。

そのような 常識 から、ソナーズを使い始めた作者の中には「感想は欲しいけれど読者に強制はしたくない」と悩む人もいます。これは、一見すると読者を気遣う慎ましい作者の意見のようですが、実際は感想ネットワークに協力せずサービスにただ乗りしようとする身勝手な考えです。ソナーズは感想ネットワークの構築と引き換えに作者に多くの感想を届けるサービスであり、健全なネットワークの醸成に貢献せずにその利益のみをかすめ取ることは許されません。

また、感想強制機能があるおかげで感想を書きやすくなる読者も存在します。一部の読者は「感想を書きたいのにな~」という思いを持ちつつ、作品を読んで得られた感情を言葉にするのが苦手だったり、作者に不快感を与えることを懸念して立ち止まる場合があります。かれらは「必ずしも整った綺麗な感想を送らなくてもよいこと」や「作者が感想を求めていること」を知れば感想を書けるかもしれませんが、それを知るための行動を起こすこともありません。名付けるなら「サイレントかまってちゃん」のような状態です。

感想強制機能は、そのような読者の背中を押して感想を送りやすくする一助となりえます。「システムから強制されたから」「作者が求めているから」と非自発的な要因に仮託して感想を送るハードルを下げることで、少なくとも一時的な感想の流量を増やせるでしょう。この取り組みを繰り返し、読後に感想を書くことを習慣づけられれば、もはや感想を送るための非自発的な要因は不要になります。

さらに、感想強制機能は「感想を書いてほしいのにな~」と考える作者の背中を押す仕組みでもあります。感想による交流がなかなか活発にならないのは、読者と同じように作者もサイレントかまってちゃんに徹してしまうことが一因であり、これもシステムが感想を強制することである程度緩和できます。「システムが強制してるんで感想お願いします」と非自発的な要因に押し付けることができるからです。感想を任意に受け付ける機能を要望することは、サービスの趣旨を踏まえれば的外れとまでいえるでしょう。

ここまで説明したとおり、ソナーズはいわば自発性を犠牲にした感想ネットワークの構築システムであり、従来の自発性に依存した小説投稿サービスとは全く異なる視点で設計されていることが分かります。

感想の三要素

ここまで、ソナーズは感想の自発性を犠牲にして交流を活発にするためのサービスであると述べました。そもそも、感想の自発性とはどのような概念だったでしょうか?

私たちが感想についてその構造や内容をメタに考えるとき、以下の三つの要素を元に分類・考察することができます。

  • 具体性: 内容についてどれほど詳細に記述しているか
  • ネガポジ: 褒めている(like)か、けなしている(dislike)か
  • 自発性: 強制されたり報酬に基づいているものか

もちろん、これ以外にも軸を設定することはできます。たとえば、感想を書いた人に注目して「読者の読解力」や「作者と読者が親しいかどうか」といった条件を考えたり、感想の対象となる作品に基づいて分類することも可能ですが、ここでは感想そのものの内容や性質に基づいて進めます。

具体性

まず 具体性 とは、感想の中で作品についてどれほど詳細に評価しているかという属性です。多くのSNSや投稿サービスにおける「いいね :thumbsup: :heart: 」や「よくないね :thumbsdown: :broken_heart: 」やスタンプ機能(参考: pixivスタンプ)は、作品全体の評価を高々2~8個程度の事前に用意された選択肢でしか表現できず、明らかに具体性に欠けた表現手法です。「いいね」でしか数値的な評価を表現できないTwitterのようなSNSでは、「役に立った」とか「面白い」とか「もっとやれ」といった感情が全て「いいね」の数に還元されてしまいます。

具体性の低い感想は、サービスのデザインによって強いられるものとは限りません。リプライやコメントの形で表現できる感想でも、単に「よかった」や「おすすめ!」のような具体性のない短いコメントを書くことはできるでしょう。一方、作品の内容を多面的に評価したり、複数の小さな場面を抜き出して思いを綴ったコメントは非常に具体的といえます。すなわち、どれほど詳細に感想を書くかについては、常に読者に任されています。最低文字数を設定すれば具体性を保証できるかもしれませんが、文字数と具体性が必ずしも一致しないことには注意すべきです。

逆に、サービスのデザインによっては読者の思いと関係なく具体性の高い感想を強いられることもあります。たとえば、ソナーズの文単位の「いいね」機能では、言葉による表現なしでどの文がどれくらいよかったかを示すようデザインされています。この機能が必ずしも文章全体の評価に繋がるものではないことは先に述べた通りですが、従来の「いいね」より詳細な位置と連打の積算による具体的な表現を行うことができます。

具体性の高い感想は、作者が作品にかけた時間や手間に価値を生み、新たな作品を生む原動力となりえます。しかし、具体的な感想を書くのは非常に高度で負担のかかる活動であり、具体性の高い感想だけを求めるサービスは遅かれ早かれ衰退するでしょう。そのため、多くの投稿サービスは「いいね」や :star: の数で表現する五段階評価のようなシステムを併用しています。

ネガポジ

次に ネガポジ とは、その感想が(作者ではなく)作品に対してどのような評価をしているかという属性です。作品の良い部分を挙げたり褒めたりするポジティブな感想と、悪い部分に注目してこき下ろすネガティブな感想では、作品に向けられる視線の質が異なります。

ポジティブな感想は現状を肯定してその活動の継続を促進するものであり、ソナーズの感想ネットワークでも重視されているものです。一方、ネガティブな感想は現状を否定してその活動の変化を促進するものであり、ポジティブな感想と同様に有用なこともありますが、疎まれることが多いです。感想においては「とりあえず褒めておけばいい」が成り立つとしても、「とりあえずけなしておけばいい」は成り立たないことに注意する必要があります。

なお、ネガポジと具体性はもともと独立した概念です。つまり、感想の具体性にかかわらずネガティブまたはポジティブな表現を妨げることはできません。五段階評価のようなシステムは、具体性なくネガポジを広く表現できる最たる例です。しかし、「いいね」に対する「よくないね」や低評価のマークは重視されないか、そもそも用意されていないことすらあります。もちろん、具体性なく「面白くない」や「嫌い」とコメントすることはできますが、数値的な評価として集計されるわけではありません。このようなデザインの下では、ネガティブな感想が意図的にシステムから隠されているといえます。

また、ネガポジを持たない感想も存在します。文章構造や物語の構成について客観的に分析した具体性に富む文章は、読者の感情表現ではなく、作品について論じるためにニュートラルな立場から記述されるものです。これらは感想というよりテクスト分析や解説と呼ぶべきものですが、場合によっては 強い 感想と分類されることがあります。

ネガポジを持たず、具体性にも欠ける感想について考えることもできます。たとえば、あまねけ!の「読んだ」ボタンは記事を最後まで読んだことしか表現できません。作者への誤字脱字の報告(参考: 誤字脱字報告したら、ブロックユーザー指定された。, 誤字脱字の指摘って…)も、どんなに善意からの有益な指摘だとしても、作品を単なる文字情報として読み込んだことしか示せません。これらは 弱い 感想と分類されることがあります。

自発性

最後に 自発性 とは、その感想がどのような動機で書かれたかという属性です。先の二つとは異なり、ある程度に感想の内容や性質から離れた軸ですが、感想を書いた人の属性ではなくあくまでそのきっかけについて考慮するものです。

従来の投稿サービスは、自発性に依拠した感想システムがほとんどであり、あくまで作者の呼びかけと読者の善意によってかろうじて感想ネットワークが成立していました。そこでは、前述の通り「感想が欲しいのにな~」と「感想を送りたいのにな~」が空中で飛び交う非効率的な状況が続いています。自発性を前提とするこの構図は、インターネット以前のファンレター文化などから続いており、もはや不変で当たり前の性質とさえ思われています。

感想とは衝動の産物で、強く心を動かされたときに自然と出てくるものです。
だから感想は読者が強制されて書くものではないし、もちろん作者が謝礼をもって依頼するものでもありません。
モロクっち「執筆活動を無期限休止します」(2020-08-20)

2020年に作品の感想や反応がもらえず筆を折ったモロクっち氏によれば、感想は「この気持ちを伝えたい!」という強い衝動によってのみ生まれるものです。この認識は、ソナーズが提供する感想強制機能と真っ向から対立します。大量のコンテンツによる可処分時間の奪い合いが当然となった現代でさえ、単に毎月金銭で支援するだけではなく、強い自発性に基づいて反応しなければ価値がないというわけです。

そもそも、自発性のない感想というのはどのようなものでしょうか。その代表例は、小学生や中学生が夏休みの宿題として課される読書感想文でしょう。宿題としての読書感想文の上では、児童・生徒が自発的に感想を書こうとしているわけではなく、定められた分量を埋めて提出するために本を 読まされ 、文章を 書かされ ます。

もちろん、もともと本を読んで感想を書くのが得意・好きだったり、初めは非自発的に感想文に取り組んだものの、最後には楽しく終えられたという経験を持っている人もいるでしょう。そういう人たちにとっては、読書感想文は自発的で楽しい取り組みだといえます。

ソナーズの感想強制機能も同じように、もともと感想を書くのが得意な人にはそのまま感想を書いてもらい、感想を書くのが苦手な人にも感想を書くのに慣れてもらうシステムと考えることができます。先述の通り、感想を書くことを習慣化できれば、もはやシステムが感想を強制する必要はなくなり、いったんは自発性を犠牲にしたはずが、かえって自発性の高い感想ネットワークを構築できるでしょう。

感想の自発性のみを強く重視すると、ほとんどの場合はネットワークの衰退に繋がります。何も対策せず自発的に感想が来るのを待ったり、自発的な感想の量で自分の能力を試そうとすることは、根本的に「面白い作品を書けば売れる」という素朴で愚鈍なアイデアと変わりません。読者-作者のマッチングはタイミングや運が影響し、作者や作品の属性だけでは決定づけられない不安定なものです。そこで、誰も動かず一歩目の感想が生まれないよりましだ、と両者に無理矢理一歩踏み出させるのがソナーズの意義だといえます。

ソナーズに不足していること

ここまで、ソナーズの特徴や目的と感想の三要素の関連について述べました。

ソナーズは従来の投稿サービスが全く目を向けていなかった 自発性 にメスを入れ、あえて犠牲にすることで感想の流量を増やす思い切ったシステムを提供しています。これにより、受け身で感想を待つだけの作者や感想を書けずに立ち止まっている読者が、大きな負担なく感想ネットワークに参加しやすくなるでしょう。

しかし、自発性を犠牲にした感想ネットワークの構築は、これまで質の高い少量の感想だけが流れていた世界に、ある程度質の低い感想が大量に流れるようになると言い換えることもできます。宿題としての読書感想文と、自発的な活動としての読書記録の差を考えると分かりやすいかもしれません。具体性の高い感想が欲しい作者に具体性の低い感想が、ポジティブな感想が欲しい作者にネガティブな感想が届く新たなミスマッチも増えるでしょう。

ソナーズが解決したのは自発性の軸のみです。既存の具体性やネガポジの軸はそのままに、サイレントかまってちゃんだらけの非効率的な世界を反転させました。そのため、自発性を超えたところで論じられていた問題はそのまま残っています。あらゆるコミュニケーションがハラスメントとして扱われる現代では、作者が求めていない感想を送りつけること自体が非難の対象となりかねませんし、読者が感想を書けずに立ち止まる新たな原因にもなるでしょう。

そのため、今後の感想指向型サービスに求められるのは、マッチングアプリのような出会いの枠組みだと考えられます。意図しない接触を完全に排除するよう求められる現代では、マッチングアプリが偶然の出会いをサポートしており、自らの情報を適切に開示しなければ出会いを探すことはできません。これを作者-読者の感想によるコミュニケーションに準用し、作者は欲しい感想の傾向を示し、読者は書ける感想の傾向を示すことで、望まない不幸を回避できる可能性があります。

おわりに

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