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icon of Amane Katagiri あたしって「レシート領収書盲」かもしれない

最近セルフレジで会計をすると、レシートと領収書のどちらを出力するか尋ねられることがある。念のため確認しておくと、レシートというのは商品やサービスの値段やその合計、取引日時や店名を縦長の感熱紙に印刷したいわば「取引明細」であり、一方で領収書にはそういう詳細がないことが多く、主に取引金額や宛名を横長の紙で示す「取引証明」である。

私たちがセルフレジで会計するような小売店に行く場合、多くのケースで取引明細としてのレシートを所望しているはずだ。ふつうの用途では、領収書は見た目はよいけれど家計簿に載せたい情報がない劣化コピーに見えてしまう。領収書の出番といえば経費精算だが、現在ではレシートを添えた方が証憑能力としてはむしろ高いことが知られている。

しかし、少なくない小売店が導入しているセルフレジではこの「領収書」ボタンと「レシート」ボタンが左右に同じ大きさで表示されている。

左から「領収書」「レシート」と書かれた紫色のボタンが2つ並んでいる図
この例では、お店のイメージカラーらしい同じ色のボタンが並べてあるので比重が全く分からない。

左から「領収書」と書かれた緑色のボタン、「レシート」と書かれたピンク色のボタンが並んでいる図
緑色とピンク色に色分けされているが、どちらがアクセントカラーか分からない。大きさも同じなのであまり効果がない。

商品をスキャンして袋詰めをして支払いをして――とそれなりに複雑な作業をした末に、こういう画面が最終問題のように「領収書 or レシート?」と出てくるのだ。そこで「領収書と、レシート……あー、レシートね」と悩むコンマ数秒が、私はちょっと苦手だ。

これまでは、有人レジで会計が終わって「領収書はいかがですか?」なんて聞かれなかったし、「レシートください」と言うときに領収書の姿を思い浮かべることもなかった。経費精算システムに領収書の写真を添付するとき、レシートの姿は意識に上がってこない。レシートが主役になるシーンと、領収書が主役になるシーンは完全に分かれていた。同じ比重で目の前に現れるようになって、いきなり認知負荷が上がった気がする。

もちろん、目や耳で受け取る「レシート」や「領収書」という単語と具体的なイメージが結びつかないわけではない。だって私は「レシート」ボタンと「領収書」ボタンを押したときに何が起こるかは完全に知っている。「あなたがいま買った味の素は、L体とD体どちら?」なんて雑学クイズが出題されているわけではないのだ。

それなのに、不意に選択肢として現れると一瞬でも迷ってしまうのは面白い。もし明日の起きしなに「今朝はレシートと領収書どっちにする?」と言われても、私は上手く答えられないだろう。困惑した顔で領収書を持っている姿が目に浮かぶ。

右と左の判断や指示が咄嗟に分からなくなる「左右識別困難」という症状があるらしい。右も左も自分に定着した概念としてよく知っているのに、同じ比重で同時に出てくると急に迷ってしまうというのだ。特定の脳疾患を除けば日常的な範囲の症状は病気や障害ではなく、あくまで個人差や一時的な症状として取り扱われている。左右の概念が理解できないわけではなく、生活に大きな支障が出ない軽い症状ということだろう。

この命名に揃えれば、私はレシートと領収書の識別困難だと言えそうだ。レシートと領収書はちゃんと知っていて、それでも対等な比重で選ばされると迷ってしまうという、日常のちょっとした引っかかり。左右識別困難が俗に左右盲と呼ばれているのに合わせれば、「レシート領収書盲」と呼ぶと語呂がよさそうだ。うん、あたしってレシート領収書盲かもしれない。

いつも行っているスーパーのセルフレジはこういう点に気を遣う開発者がいたのか、「レシート」ではなく「お会計」というボタンが大きく配置されていて、その横に小さく「領収書」ボタンがある。

左から「領収書」と書かれた小さな水色のボタン、「お会計」と書かれたオレンジ色の大きなボタンが並んでいる図
相対的に大きなボタンとレシートを意識させないラベルで選びやすい。オレンジ色なのでさらに目立つ。

これは、UX用語で言うところの視覚的階層である。色もよく調整されている。これなら、「私は領収書ではなくレシートが欲しいのだ」と考える必要がない大多数のお客さんは自然にレシートを受け取れるし、領収書が欲しい人は注意して「領収書」ボタンを押せばよい、ということになる。

レシート領収書盲なんて認識は、単に毎日あの二択のセルフレジで会計すれば慣れて消えてしまう概念かもしれない。それでも、現に認知負荷なく使えるセルフレジが設計されて世に出ているのだから、こういう小さな感覚を意識していれば、社会の役に立つことがあるだろう。

(文・桐谷梨花1


  1. 東京生まれ東京育ち。第二の故郷フランスでアロマテラピーを学び、その後イギリスに渡ってIFAS認定アロマセラピスト資格を取得。アロマの定額カウンセリングサービス「パルファ」でトップアドバイザーとして活躍中。本業の傍ら、4匹のシャポーと一人の同居人と暮らす日々を独自の視点で語る「シャポーぐらし」で人気を集めている。あまねけ!では桐谷梨花のキャンディ日記などでエッセイを公開中。