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海が壊れる

「B子、もう行くぞ! 早く出てこいって」

冬に入りたての冷たい夕暮れの中で、イライラしたA子の声と共に乱暴にドアノブを回す音が響く。浮いたレバーがあちこちにぶつかって、不快な金属音がB子の部屋を満たした。とはいえ、都心の繁華街から徒歩数分の狭苦しいマンションには、これくらいの騒音で苦情を申し立てるような繊細な住人はいない。

「A子、そんなところで騒がないでよ! あぁ、せっかちなのって、本当に嫌だわ」

四階にあるB子の部屋のドアノブは、ここに引っ越してきた当初よりも明らかにゆるくなっていた。このドアノブが壊れたら、修理費用は「恋茶」のタピオカミルクティでおよそ二十五杯分。C子によれば、その十パーセントが材料費、二十パーセントが交通費で、残りは作業費だという。

どうせA子を怒鳴りつけたところでこの乱暴さは治らないし、抜け落ちたらC子を呼んで直してもらえばいい、とB子は思った。

「時間通りに来るって言ったんだから、開けとけよな」

諦めて自分で鍵を開けたA子が、ずかずかと部屋に上がり込む。

B子は昼に買ったサーモンナゲットの残りを口に放り込み、それをシリカ水で流し込んでから、ピンクのボトルをぐしゃりと潰した。B子はコンビニに行くと三回に二回はこの「特製モゲット五個入り(紫)」を買っているが、A子には大豆たんぱくと魚肉が混ざったパサパサで生臭い塊の美味しさがどうしても分からなかった。

「うるさいわね。あんたって、治安感覚が狂ってるんじゃないの? 私に言わせれば、下に置いてきたバイクの心配をしたほうがいいと思うけど」

「アレはC子がセキュリティ付けてくれたからいいんだよ。勝手に触ったら、ドカン!だからな」

「そうよね。スクーターからミニミサイルが出るなんて、いかにもバカが考えそうなアイデアだもの」

B子の言う通り、A子がこうして急ぐのはバイク(正確には、C子が大幅な改造を加えた125ccのスクーターだが)を下に停めているからであり、それは同時に小さな遠出が始まる合図でもあった。B子にも当然それは分かっていて、もう家を出る準備は終わっていた。

「すぐ行くから、下で待ってなさいよ」

そう言うと、B子は白いサッチェルバッグにポータブル加湿器を突っ込んだ。肌にナノミストを染み込ませるだけではなく、化粧水や水素水を噴霧できたり、さらには七色に光る優れものだ。

「B子、またそんな服着てんの? 今から 海を壊す ってのに、そんな格好でいいのかよ」

A子の言う通り、B子はいつもと変わらないお人形さんのような服装だった。ふわりと広がる裾にぐるりと白い線が入ったベリーカラーのワンピースが、黒髪の大きなツインテールによく馴染んでいる。さらに、薔薇の模様の入った白い厚手のオーバーニーと、リボンのように巻かれたジャカード織のピンクのストールがその身体を包み込む。ストールを外した時に着けられるように、バッグには大きな金色の鍵のモチーフを下げたペンダントが入っていた。

B子はさらにその上からベージュのピーコートを着込んだが、今からしっかり北風に当たることを考えると、寒さ対策にはまだ少し足りないかもしれない。

A子によれば、B子は持ち前の巨乳を活かしてファンからいいね!を集めているだけの薄っぺらい女だというが、B子は「脱いでないだけマシじゃない!」と反論していた。さらに「だらしない腹を見せたくないだけじゃん」「今はむしろ、そういうのが人気だからいいの!」……と続く。

「水着もちゃんと持ったわよ。あんたこそ、普段どおりのコーデじゃないの」

そう言って、A子の顔を指さす。くせの強い茶髪は、運転のじゃまにならないように無理やりポニーテールにまとめられている。テカテカした紺色のスタジャンにゆったりした黒いデニムパンツは、こちらもいつもと同じ冬の装いだった。ポケットにはスマホとタバコとライターしか入っていないし、メットインは出処の分からないがらくただらけで、水着が入るような隙間はないはずだ。

「いやいや、あたしだってちゃんと着てきたっつーの」

A子がスタジャンのボタンを開けると、荒いディザのかかった犬の写真がプリントされた濃いパープルのパーカーが現れる。さらに「ほら」とインナーと一緒に裾をめくると、引き締まった綺麗なお腹に続いて青い三角ビキニがあらわになった。

「ちょっと……二十歳超えても頭は小学生のままね。本当に心の底から尊敬するわ」

「じゃあ、早く出ようぜ。もうC子も向かってるってよ」

B子はさらに「まぁ、可愛いじゃない。ちゃんと盛れてるし」と続けるつもりだったが、言葉に詰まっているうちにA子が玄関に向かってしまう。鏡の前でバッグを背負いながら「……なによ、もう」と、小さくため息をついた。

玄関に使い古した白いスニーカーと黒い編み上げのショートブーツが並ぶ。A子の後に続いて外に出たB子は、日没を迎えた夜空の寒さに小さく震え上がった。都会のど真ん中でさえこの空気なのだから、今から向かう廃港には雪が降っていてもおかしくない。C子の指示通り水着は持っていくけれど、こんな気温でビキニなんて着たら凍死は確実だった。

B子によれば、C子はもともとA子の友達で、三人でつるむようになってからもその印象はあまり変わらずにいた。A子とは前から二人で遊ぶ仲だったが、C子とは二人で出かけたことさえなかったからだ。一方で、C子は二人の有料配信の準備や撮影をこなす技術担当だったから、彼女らが演じる ショー についてはよく知っていた。

B子がタンデムステップに足を掛けてシートにまたがる。風除け(C子によればv8.3144-SNAPSHOT)の有効半径を目視で確認しつつ目の前の腰を掴むと、A子が後ろを向いた。

「やっぱB子って二人乗り向いてねーよな。胸はデカいし重いし服はヒラヒラだし。C子がこいつを改造してなかったら、そもそもスカートなんて履けな――

「うるさいわね! いいから早く出しなさいよ」


A子たちが港に着くと、既にC子がポケット投光器(最大10000ルクス・材料費として12,617円)に照らされながら海を壊す準備を始めていた。

「あ、AちゃんBちゃん。早かったねぇ」

振り返ったC子に、A子が「よっ」と軽やかに手を振る。B子と一緒に投光器を背にして立つと、強力な光が当たる素肌がほんのりと暖かくなった。

猫のイラストがパズルのように並べられたカラフルなレジャーシートの上には、手持ち花火セット(7,080円)、打ち上げ花火セット(11,800円)、ビデオカメラ(153,164円・減価償却中)、三脚(9,440円)、ノートパソコン(C子の私物)、モバイルルーター(C子の私物)などと一緒に、家庭用の打ち上げ花火を装填できる小さなバズーカが置かれている。

そのバズーカには、C子が好きな「ラブファイターシュガースター」のステッカーが大量に貼られていた。A子によれば、C子は自分が開発中のデバイスにシールを貼るのが大好きらしい。

C子の前に、二人よりも一回り背が小さい影が伸びている。実験の邪魔にならないように短く切り揃えられた黒髪は、サイドの毛先が明るい緑色に染まっていた。白いワンピースにピンクの麦わら帽子をかぶったその姿は、寂れた夜の港よりも明るい砂浜の方が似合っているのかもしれないが、小柄な身体に背負われた大きな黒いリュックのせいで透き通るような夏の印象はすっかり薄れている。

B子は、ワンピースと麦わら帽子という季節外れの組み合わせにどうこう言うつもりはなかった。しかし、洗練されたコーデを台無しにする無駄なリュックと、それを気にも留めないC子の無神経さに少し腹が立っていた。

と、彼女がC子のリュックについて問い詰めるよりも先に、A子が横から口を挟んだ。

「C子、リュックは下ろせよ。そっちの方が夏っぽいって」

「ちょっと、A子――

「んー……そうかも! ありがと、Aちゃん」

C子は笑顔でリュックをレジャーシートの上に置き、さらにそこから同じようなシールが貼られた太い筒を取り出した。おそらくバズーカに装填して射出する花火のような装置のはずだが、C子の手の中で揺れるたびにちゃぷちゃぷと液体の音が聞こえる。

楽しそうなC子を尻目に、先を越されたB子はA子を睨みつけていた。気付いたA子が「何見てんだよ?」と応酬するが、さらに「うっさい!」と返すB子自身にも、何にイラついているかはよく分からずにいた。

「C子。 パパ はどう誤魔化したん? 今日も電車で来たんだろ?」

「あ、トラカのこと? 一枚くらい偽造するなら簡単だよ。大量に生産したいなら、香港に行ったほうがいいと思うけど」

C子が 花火 をバズーカに装填する。今日の撮影計画によれば、このバズーカで海を壊してから、花火を使って投稿に使う映像の撮影や有料配信を行うらしい。冬に花火を楽しむ映像が絶対バズるはずというのは、B子のアイデアだった。

C子によれば、B子が自信満々に出したアイデアが今まで大ヒットしたことはないという。

トラカは都民カードと紐付いた非接触ICの乗車券である。個人情報なしでは乗車できないこのシステムは、小中学生の通学や塾通いに支障がないか、彼らの保護者が 見守る にはとても好都合だった。C子のパパは、大学生になった今でも彼女の乗車履歴をよく気にしている。

「海、壊れたらどうする? そのまま水着で配信してもいいかもな」

そう言うと、A子がにやりと不敵な笑みを浮かべてジャケットとパーカーを脱ぎ捨てる。彼女が下に水着を着ているなんて知らなかったC子は少し驚いたが、しばらく見つめているうちに、指でなぞりたくなるようなゆるやかな起伏にいつの間にかドキドキしていた。

「おぉ……さむ……

数秒前の思い切りの良い脱ぎっぷりが嘘のように、A子が自分の身体を抱いて震えだす。やはりほぼノーガードのビキニでは、冬の海風に耐えられるわけがない。それでもA子は「B子もC子も早く着替えろよ」と急かすので、B子は何度か文句を吐いてからしぶしぶ物陰を探しに向かった。

「あのバカ、マジで許さないんだから……

かつて港の設備の一部だった道具小屋を見つけたB子は、おそるおそる中に入るとレジャーシートを広げて足場を確保した。そして、隙間から風が吹くたびに「お……ふっ……」と寒さに震えながら、十五分ほどでどうにか着替えを終えた。

上からコートを羽織ったB子が二人の元へ戻ると、簡易なヒーターを兼ねた強力な投光器の下で、A子の健康的なビキニの横に、紺のスクール水着に身を包んだC子の姿を見つけた。よく見ると、二人とも額にきらきら光る偏光ゴーグルを身に着けている。

「それも、パパの趣味?」

B子が名札を指さすと、C子は「そんな感じ」と肩をすくめた。成人したての大学生が着るような水着ではないものの、C子の身体にはよく似合っているし、この気温の下で大きな布面積は明らかに有利だった。

「えーと……反動でいっぱい光が出るから、Bちゃんもこれ着けたほうがいいかも。失明するほどじゃないんだけど……

そう言って、C子が二人と同じ偏光ゴーグルをB子に手渡した。B子はしげしげとその無骨なアクセサリーを隅々まで眺めると、とうとう「嫌よ。こんなダサいの着けたくないわ」と突き返してしまう。「危ないから着けて」「ダサいから嫌」と、そんなやり取りを何度か繰り返した後、結局C子が折れて「せめて目は瞑っててね」と頼み込んだ。

「AちゃんBちゃん。今から、みんなで海に向かってこれを撃つの。そうしたら、すぐ始まるから」

C子がバズーカを肩に載せ、その横からA子とB子がバズーカに手をかける。発射口は、C子の指示通りに五十メートル程先の水面を指している。C子の呼吸に合わせて照準が前後しているが、水面にさえ着弾すれば問題なかった。

「じゃあ、いくよ……

しばし緊張を伴った静寂が流れた後、誰からともなく引き金を引くと、パシュッと風を切る小さな音と共に強烈な光が辺りを包み込んだ。

肉眼でその閃光を浴びたB子は「きゃっ!」と叫んでその場にうずくまってしまう。バランスを崩したバズーカはC子の肩を離れ、したたかにコンクリートの地面に打ち付けられた。バズーカは発射口から真っ二つに割れてしまったが、それは既に 始まって いたから、C子にとっては役目を終えた道具の行く末なんてもうどうでもよかった。

それから遅れること数秒、C子のお手製花火が着弾した水面が大きく揺れて、ほんのり光を帯びた液体があふれ始める。それはおおよそ無色透明だったが、ずっと遠くに目をやるとわずかにエメラルドグリーンに染まっているのが分かった。

その不思議な潮汐はみるみるうちに港を満たしていき、いつの間にか三人の足元を覆っていく。しかし、その液体は彼女らの靴を濡らすこともなく、まるでパンケーキにかかったシロップのように陸の方へ流れていった。

A子が思わず「すげぇ」と声を漏らす通り、それは決して日常では出会えない不思議で不可解な光景だった。C子にとっては実験室で何度も見た現象だったが、大海原を埋め尽くすその景色に新たな感動を覚えている。そして、こんなに綺麗な景色をシェアできないなんて、とB子に無理にでもゴーグルを渡さなかったことを後悔していた。

しゃがみこむB子の視界が回復した頃には、既に大きな波が彼女の首元まで迫っていた。B子は思わずのけぞるけど、彼女の顔に水がかかったような感触はない。状況を理解するより先に、彼女の身体はすっかりエメラルドの水面に浸かってしまった。

この時、思わず上を見上げたB子によれば、A子は穏やかな光の中で遠くを見つめて立ち尽くしていたという。


エメラルドの海はみるみるうちにその高さを増して、とうとう三人の背を大きく超えて見渡す限り一面を満たしていたが、やはり彼女たちの呼吸に影響はなかった。

「ねぇ、C子。妙なことが起きているみたいだけど、どうして私たちは生きてるの?」

「あ、えっと……流体力学的に計算してて……あ、タンデムシートに空気が流れ込まないのも同じ原理なんだけど、ちゃんと説明する?」

B子が首を振ると、C子は身振り手振りでやさしい説明を始めた。B子の理解できた範囲では、この特殊な液体の発生点が球面上の一つなら、距離に応じて圧力が増していき、最終的に反対側の点に集まるのだという(ただしC子の補足によれば、地球は正確に対称ではないので一点には集まらない)。つまり、地球の裏側ではあらゆる物体が押し寄せて大騒ぎになるだろうということだった。

「で、海が壊れると、結局どうなるの?」

「少しずつ、少しずつ、全部混ざり合うよ。なんか、私たちみたいじゃない?」

A子は二人の会話を聞きながら、水中でクロールのように腕を振り回していた。指先に感覚をよく集中させると、動作の始まりと終わりにほんの少し抵抗があるのが分かる。周囲が空気よりも重い何かで満たされている感覚は糸のようにふわふわと漂っていて、気を抜くと水の中にいるのを忘れてしまうほどだ。C子の荷物が流されている様子はないし、手の中のスマホも問題なく動き続けていた。

ふと、A子は辺りが明るく、暖かくなっていることに気付いた。唯一の光源だった投光器の電源はいつの間にか落とされていて、港の隅から隅までほんのりした光で照らされている。A子自身は寒さに慣れてきたつもりだったが、ただ単に海の温かさで満たされていただけだったのだ。

「えーと……だから、私たちはしばらく大丈夫だよ」

「しばらく? いつまでこんなのが続くんだよ?」

「どうだろうね? どうだろう……どうだろうね、えーと、うん。とりあえず、花火で遊ばない? 投稿用のクリップも撮影しなきゃいけないし」

そう言うと、C子は四角い黒地に白字で「毒」と書かれた白いTシャツを着て、ビデオカメラの準備を始めた。A子は打ち上げ花火セットから派手そうな数本を抜き取って、数十センチごとに地面に並べている。両手に花火を握ったB子はカメラの前でポーズを決めて、C子がファインダー越しにそれを見ながら微調整を繰り返していた。

それから、三人はしばらく花火を楽しんだ。C子は点火した線香花火を何度も観察し、火球がほとんど落ちなくなる現象をノートに書き留めて静かに喜んでいる。A子は赤い光を噴き出す花火を振り回し、火花を浴びそうになったB子がわめき散らしていた。

その横でもくもくと吐き出される白煙が、水に流されてすぐに消えていく。大気の粘度では明らかに起こらない現象だったから、C子はまた小さく喜んだ。綺麗な写真を残すにはこの上ない環境だった。

「これ、すごくいいよ! 除煙フィルタも必要ないかも。Aちゃん、打ち上げ花火も撮っていい?」

「オッケー。どれにしようかな……

C子が三脚からカメラを外して、空に向かってピントを合わせた。

A子が打ち上げ花火に点火する。ヒュンッ、と垂直に飛び出した小さな光が数十メートル上空で弾けると、鮮やかな青い花が放射状に開いた。火花は地面に落ちずに広がっていき、ふっと燃え尽きる。エメラルドグリーンの背景に青い煙が流れて、B子はまるで違う惑星の空を見ているような気分になった。

しかし、さらに十数秒経っても、誰一人視線を地面に戻さない。花火に見とれているというには、少し奇妙だった。

「すげぇ、魚が泳いでる」

それから、最初に言葉を発したのはA子だった。目の前の湾を泳いでいたはずのアジやイワシが、はるか上空を群れになってきらきらと泳いでいる。まるで海底に立っているような光景に、C子でさえもカメラで銀の群れを追うのがやっとだった。

さらに遅れて、B子が空にカメラを向ける。フォロワーが大喜びで拡散する姿が目に浮かぶようだった。写真を何枚か、十秒ほどの映像を数本撮ってから「海の中から :fish: :tropical_fish: :beach: :fish: 」とコメントを付けて投稿しようとしたところで、B子が異変に気付いた。

「C子、なんかここ圏外なんだけど?」

「あ……そ、そうだね。全部流されちゃうから、インターネットが通じなくなっちゃったのかも」

C子はリュックから取り出したマルチバンドレシーバーをノートパソコンに繋げると、電波の測定を始めた。本当に使うかのは分からないが、港湾事務所の屋根に残された大きなループアンテナにも太いケーブルが伸びている。

C子によれば、この液体の中でも電波は(むしろ大気中よりも効率よく)届くはずだったが、700MHz~5.6GHz以上の意味のありそうな電波はほとんど検出できなかった。

「本州はもうすっかり落ちちゃったみたい。豊原放送局からラジオとテレビの電波が少し届いてるけど……これも、すぐ消えちゃうと思う」

「じゃあ、今日は配信できないってことか。B子、どうする?」

「せっかく来たんだし、どうせなら何本か撮っておきましょうよ。真冬の海で花火編、絶対売れるわよ」

A子はB子の腰に後ろから手を回して「やべー」と言ってくすくす笑う。「……急に触らないでよ」とA子を睨みつけるが、その腕に抵抗する力は弱い。それに気をよくしたのか「最近全然してなかっただろ? やっぱB子が一番いいんだよなー」とさらに強く抱き締めた。

ほんのり冷たいA子のお腹がB子の腰に触れて思わず身体が跳ねてしまうけれど、A子の手がそっとそれを押さえつける。じわり、と二人の体温が混ざって広がっていくのを、お互いの肌で感じ合っていた。

それを見るC子が何か言いたげに「その、えっと……」ともじもじしているのに気付いて、A子がB子の横から身を乗り出した。

「ん? どうしたんだよ、C子」

「えと……配信しないなら私もエッチしたいんだけど、だめ? 撮影は、してもいいから……


百合SS Advent Calendar 2020