第三十一回文学フリマ東京でラブホパネルを展示した。
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原理としては素直なもので、 100円ショップで購入した 木箱に 100円ショップで購入した アルミテープを巻きつけ、 100円ショップで購入した LEDストリングとAliExpressで買ったLEDの付いた四角い瞬間的なプッシュボタンスイッチを押し込んだらできあがり。これを3行3列に配置すれば かわいい ラブホパネルとして世に出せるというわけだ。LEDなので、展示会場で燃える心配もあんまりないと思う。よかったね。
できあがった発光ボックスを、倒れにくく押しやすい角度で立てかけるために、これらのラブホパネルを置く台が必要となる。これは、 100円ショップで購入した 木材と 100円ショップで購入した 蝶番を、 100円ショップで購入した ネジで取り付けて、 100円ショップで購入した ワイヤーネットを 100円ショップで購入した 結束バンドで固定すればよい。蝶番を用いるのは、持ち運び時に折りたためるようにするためだ。
一番上の発光ボックスに 100円ショップで購入した フックを取り付け、前段のワイヤーネットに引っ掛けることで、ラブホパネルはかなり安定する。目新しい作業はないが、とにかく根気と器用さが支配する世界なので、僕はあまり関わっていない。技術支援のごまふわラビ(@gomafu_warabi)氏に感謝します。
本体はもちろん、制御も単純に実装されている。ボックスごとに4本ずつ引き出したケーブル1に適当な抵抗と2SC1815互換を生やして、Raspberry Piに接続しただけだ。9個くらいなら、わざわざダイオードを貼り付けたりしてキーマトリクスを作る必要もない。
以下が制御の流れである。キャンセルを(再起動などではなく)明示的なボタンに紐づく機能として実装することで、ボタンを押すハードルを下げることをねらっている。
注文された作品を手渡すのは、今のところ人間の仕事である。できるだけ顔を合わせないように、可愛い布をかけたメタルラックの下から代金を受け取り、作品を差し出す仕組みになっている。
これで、今回の経験をもとに「100円ショップで揃う材料で作るラブホパネル」(ただしRaspberry Piと電子部品は自宅の床から拾うこと)という本を書くことができるようになった。世の中は野暮ったい但し書きをどんどん省略する方向に進んでいるし、100円ショップで揃わない素材はどこかでかき集めてくればよい。
ラブホパネルを設置したところ、来場者からいろいろな反応をいただいた。
一番多いのは、チラ見してそのまま通り過ぎる人。次に多いのは、二度見するものの立ち止まらずに去っていく人。さらに、立ち止まるがボタンは押さない人、ひとしきりラブホパネルを眺めてから見本誌を読んで去っていく人……と続く。ラブホパネルだと気付いていない人もいたような気がする。
ラブホパネルに気付いてクスクスと笑い合うカップルと、片方がラブホパネルに気付いたもののパートナーにはシェアせず通り過ぎるカップルは対照的で、 関係性 の違いを意識させられた。同人誌即売会にカップルで(より正確には、複数人で)楽しめる要素があるのかは、未だによく分からないが。
興味を持ってくれた何人かには(もちろん感染対策を徹底して!)仕組みの説明をした。話を聞くうちにラブホパネルだと気付いて声を出して笑う人や、押すとランプが消灯したり点滅したりすることに「どうしてそこまでこだわったの?」とコメントする人、選んだ作品の値段がプリントされたレシートが出てきて喜ぶ人など、いろいろいた。レシートの印刷は何度かやっている企画だが、やはり分かりやすいとウケがいいのかもしれない。
同人誌即売会は釣り(fishing2)のようなものだと思う。
――じっと魚がかかるのを待ちながら、そっと同行者と会話して暇を潰す。騒ぎすぎると釣れるはずの魚も逃げてしまうから、少し周囲に気を払わなければならない。エサや道具はそれなりに用意しなきゃいけないし、たまには撒き餌も必要だろう。忘れた頃に食いつく気配があるから、いい感じに竿を引いて駆け引きを楽しむ。釣れようが釣れまいが、飽きたらゴミを残さず綺麗にして帰る――
これはもちろん、文フリでいわゆる50部の壁を超えているサークルだとか、二次創作のコピー本を午前中に売り切ってあとはコスプレセックスみたいなサークルの話ではない。告知をしてもろくに引っかからないし、その場で インスタントな 興味を引くような目玉作品もない弱小サークルの経験談である。
我々は、 インスタントな――ワンフレーズ、あるいは十数文字のあらすじに全てを詰め込むような――自己PR で 潜在読者 の気を引く必要があるのだろうか? もしそうだとすれば、我々は誰のために同人誌を作ることになるのだろう。よく分からない。
ひとまず、会場ではいろいろ良い体験があったが、あまり売り上げにはつながらなかった。売れないのはまぁいいとして、チラチラ見るばっかりであんまり押しに来ないのはなぜ?と同行者に尋ねたところ、いくつか仮説が飛び出した。
まず、そもそも押したくなるデザインになっていないという説。明るい会場の中では光っていてもあまり目立たないし、押せるという確信がなければ近づくこともない。これについては、支払い時だけではなく待機時にもランプを点滅させればよいのではないか、というアイデアが出た。
他にも、わざわざこのご時世で文フリに来るのはみんな気取った人間なんだから、人前でラブホパネルを押したりはしないよという説も飛び出した。いや……押しなよ、そういうの好きじゃん……雰囲気だけのやつ……。
「みんな古いラブホパネルなんて知らないよ」とも言われたが、それについては反対した。最近はどこも液晶画面にダサい立体的なボタンを並べたパネルに置き換わっているけど、一方で古めかしいラブホパネルもみんなの心に(架空の田舎?や架空の夏?と同様に)居座っていると思う。まぁ、架空の夏がどうこう騒いで盛り上がってるオタクくんはあんまり好きじゃないんですが……。
それと、ラブホパネルの後ろに人がいるのが分かってしまうから、押したい気持ちが減るのでは?とも言われた。確かに、無人の空間で部屋を選ぶドキドキ感の演出が足りなかったのかもしれない。とはいえ、パネルをこれ以上高く大きくするのは運搬の都合上無理なので、やはり自販機の完成が待たれる。
そういえば、ラブホパネルが目を引きすぎて見本誌を食ってるんだよ、という説も出てきた。それは盲点だった。同人誌即売会は本が主役、完全に忘れてた。なるほどね。
文フリが終わった後、大塚で色々なことを話しながら歩いた。大事なことも、そうでないことも。ラブホ街の明かりがキラキラしていて気持ちいい。なんか今日は一日ラブホまみれだなと思いながら、デカくて皮がパリパリの鶏肉を食べた。
美味しかった。後半に続く。